物理エンジンを使ってキックの角度が及ぼす影響を検証

Last updated: 2024/03/25

キックの角度はポップにどのような影響を及ぼすのでしょうか?

トリックがうまくいかないとき、デッキを変えてみたいと思ったことはありませんか?

例えばキックフリップでは、テールのキックがきつい方が足が板に食いつくような気もするし、緩いほうが軽い力でポップできる気もします。今回はキックの角度が及ぼす本当の影響を分析します。

Summary

緩いキックの角度ではより小さい力でポップする事ができる

物理シミュレーターによると、緩いキックの角度の板は小さい力でもポップする事が分かりました。同じ力をかけた時に、よりきつい角度のキックの場合は、板が空中に跳ね上がることはありませんでした。

緩いテールの角度の板が一番高くポップする

ポップする力を大きくすると、きついテールの角度に比べて緩い角度の方が高くポップする事が分かりました。これは、緩いキックの角度の板はポップされた直後に地面に力を伝えることができるのに対し、角度がきつい板は地面に到達するまでに長い時間がかかり、途中で潜在的な力をある程度失ってしまうためであることが予想されます。

注意点

この実験はテールをポップすることの影響のみに焦点を当てています。通説とは異なり、キックテールの角度が最も急なデッキが最も高くポップするわけではないことが示されましたが、それが直接トリックの高さも出しづらいということを意味するいるわけではありません。キックが急な板のノーズはポップした時に最も角度が付くことを考慮すると、実際のトリックで板をより高く持ち上げることができる可能性があります。

可変テールを実際に作ってみる

従来の板の課題

このチャンネルではスケートボードを科学的に分析しているため、いろんなテールの角度を比較してみたいとずっと思っていましたが、そんなにたくさんの板を買うお金はありません。

今回は、テールの角度が板のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを、複数の方法を用いて検証します。

後半で紹介する物理演算シミュレーターを使えば、皆さん自身が好きなテールの角度を検証することができます。ぜひ試してみてください。

実験に使う素材の紹介

まずはテールを自由な位置で固定できるような板を作ってみることにしました。ブランクデッキと、金具を使います。この金具は中央で折りたたむことができ、真ん中のパーツを締め付けると金具の動きを固定することができます。

金具をデッキに取り付ける

次に金具を固定する穴をあけます。金具を取り付けて、グリップテープを貼り付けたら完成です。テールの角度を自由に変えることができ、その状態で固定することもできるようになりました。新しい板を買うことなく、自分に合ったテールの角度を無限に試すことができるはずです。

実験の結果

失敗から何を得るかが大事(と自分を納得させておく)

ダメでした。金具の固定力が弱すぎて、実際のスケートボードの場面で利用できるほどの強度がどうしても出せませんでした。

デジタル版の可変テールを作ってみる

あきらめるにはまだ早いはずです。

失敗しなくて何が科学でしょうか。現実世界で作るのが難しいのであれば、物理エンジンを使えばいいのです。

簡単な3Dモデルとプログラムのコーディングをして、システムが完成しました。

Three.jsと呼ばれるJavascriptのライブラリと、物理演算ライブラリであるcannon-esを使用しました。

このシステムでは何ができるのか?

このシステムでは、テールやノーズの角度を含め、様々な要素をあなたの好みに合わせて調整することができます。

例えば、テールの角度を大きく設定して実行ボタンを押すと、指定した角度でテールが生成され、その上に球体を落下させることができます。

このシステムでポップを再現する方法

この球体がテールを押し下げることで疑似的にポップを再現することができる、という仕組みです。

角度によってテールの端っこの位置が変わるため、ボールを落下させる位置も調整できるようにしました。

調整が面倒な時はAuto Aim Tail機能をONにすると、自動的にテールの末端の位置に球体を落下させることができます。

実験結果をスローモーションで確認する方法

さらに、より詳細な分析ができるように、3D世界の時間の流れを調整できるようにしましたので、スローモーションでシミュレーションを確認していただくことができます。

システムを利用するにあたっての注意点

まだ早期リリースであるため板の長さや幅など、操作することができない変数もありますがご了承ください。

実験の条件

では早速、このシステムを使っていくつかの条件でテストします。一般的に「テールの角度が急な方がより高くポップする」とか、「テールの角度が緩いほうが軽い力でポップできる」といわれています。これらの通説が本当なのか検証するために、テールの角度が10度の板、18度の板、36度の板を使って比較検証を行います。

シミュレーション:3キロの錘を1.5メートルの高さから落とす場合

キックの角度が大きくなるとポップが弱くなる?

10度の時と18度の時はほとんど違いが無く、テールの反対側にひっくり返るように板がポップしました。ところが、36度のテールでは板が逆側にひっくり返ることはなく、もとの方向に戻ってしまいました。

これは、テールが垂直に近づくほど、テールにかかる力がノーズを持ち上げるために働くのではなく、地面を押し下げるように働くためであると考えられます。

現実世界との違いに関する注意点

もちろん、実際のトリックでテールに働く力は必ずしも垂直ではなく多少水平方向への力もかかると思われるため、必ずしもこの実験結果だけがすべてではないことに注意してください。

また、当然トリックのしやすさというのは別の話です。板が持ち上がる際、36度のテールの板ではノーズが大きく反りあがっていることが分かります。これによって前足を引っかけやすくなり、より効率よくオーリーで板を持ち上げることができるでしょうし、フリップもより簡単に入れることができるかもしれません。

シミュレーション:1.5キロの錘を1.5メートルの高さから落とす場合

36度の板のポップが一番小さい結果に

単純に比較すると36度の板の角度が一番大きくなるように見えますが、ここには隠れた秘密があるようです。

もう少し近くで見てみましょう。36度の板は球体がテールに当たった瞬間に持ち上がり始めますが、途中で板が持ち上がるスピードが遅くなり、次第に止まってしまいます。その直後に球体が再度テールにあたることで板の角度をさらに大きくしていることが分かります。

一方で、10度や18度の板は、1度目に球体が当たった後、テールが地面との支点になることで後ろのウィールが地面から離れることが分かります。この状態では板の重心が空中にあると思われるため、前足で板をフリックすれば板を回転させることができそうですね。

36度の板のテールに2回目に球体が当たる前の状態で比較してみると、3種類の板ともほぼ同じ角度になりますが、36度の板はウィールがまだ地面に接している状態です。

この状態ではおそらく前足で板をフリックしても板を回転させることはできないでしょう。36度の板の場合は、空中に板の重心を浮き上がらせ、前足で板を操作できるようにするためにはさらに大きな力が必要になるということを示しています。

この条件での結論

このことから、「テールの角度が小さいほうが楽にポップする事ができる」という通説は物理エンジンの結果としては正しいことが分かります。

シミュレーション:4.5キロの錘を1.5メートルの高さから落とす場合

通説とは裏腹に10度の板が一番高くポップする結果に

一般的には「テールの角度が大きいほど高くポップする」といわれますが、3種類の板を比較すると、なんと10度の板が一番高くポップする事が分かります。

この理由を考えてみましょう。10度の板のテールは地面に近いため、球体から受け取ったエネルギーをすぐ地面にぶつけることができ、その反発で空中に飛び出すことができます。

36度の板は地面に到達するまでにエネルギーを失う

36度の板の場合は長い距離を下降して初めてテールが地面にぶつかることになりますが、その時点ではすでに板が持つエネルギーがいくぶん失われてしまっていると考えられます。

てこの原理の影響

水平方向の距離に注目するとてこの原理が働くこともわかります。角度が緩くなるほど支点から力点までの距離が遠くなるため、より効果的に力点の反対にあるノーズを持ち上げることができるようになります。

この条件での結論

これらを踏まえると、「テールの角度が大きいほど高くポップする」という通説は板の跳ね上がりという観点だけから見ると誤りということになります。

この実験の注意点:板の角度について

ただし、現実世界のトリックでは他の要素も考えに入れる必要があります。 例えば前足の役割やタイミングなどです。例えば、36度の板は地面にヒットする際、他の板に比べて大きな角度を形成するため、前足とより大きな摩擦を生むことが想定されます。

この実験の注意点:タイミングについて

また板が跳ね上がるのも一番遅く、前足を使うべきタイミングが異なることが分かります。

繰り返しになりますが、この実験ではテールに外部からの力をかけた時の条件のみを検証している点に注意してください。

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