オーリーの物理学 vs 誤解:前足は押すのではなく引き上げるべき理由

Last updated: 2025/05/08

オーリーの高さが伸び悩んでいるなら、前足をスライドさせる練習は今すぐ忘れましょう。その理由は、かつて日本の古武術や忍びの者たちが用いた秘密の動きに隠されています。

この記事では、オーリーにおける前足の使い方が古武術とどのような共通点を持つのかを紐解き、生体力学と物理学の観点から、高く飛ぶために必要な条件を明らかにしていきます。

まとめ

スライドの誤解:なぜ垂直に引き上げるべきなのか

オーリー練習では、前足を板に沿ってスライドさせることに意識が向きがちです。しかし、これが高いオーリーを妨げる原因になることがあります。実際には、前足を垂直に引き上げる動きの方がはるかに重要です。板は自然と前足を押し返すため、前傾するとその力が弱まり、必要な上方向の力が失われてしまいます。意図的にスライドさせる練習は、リアルなオーリーの正しい技術とは異なります。

忍者のロジックとオーリーの失敗:前傾は高さを奪う

忍者の技「縮地」のように、前方への滑らかな動きを意識しすぎると、オーリーの高さは犠牲になります。前足を意識的にスライドさせることで、体は前に傾き、後ろ足は後方へ蹴り出されます。 その結果、垂直方向の力が弱まり、後ろ足がテールから離れてしまう原因になります。高さを出すためには、垂直方向の引き上げが不可欠です。

タイミングを極める:上昇中にノーズを押さえる

オーリーで最も重要なのは、板がまだ上昇しているタイミングでノーズを押さえることです。この瞬間、重心は上昇を続け、ノーズが下がることで板は回転し、テールが持ち上がります。押さえるのが遅れると、板はすでに落ち始めており、持ち上げる力が失われてしまいます。これを習得するには、まず前足をリラックスさせ、垂直に引き上げる動作を優先し、適切なタイミングでノーズを押さえる感覚を身につけましょう。

よくある誤解

確かに——オーリーでは前足をスライドさせる動きが重要に見えます。スローモーションで見ると、前足が明らかに板に沿って滑っているのがわかるでしょう。ですが、前足をスライドさせる練習にこだわりすぎるべきではありません。その理由は、スライドの練習で使う前足の動きと、実際のオーリーで必要な動きが異なるからです。特に高く飛ぶオーリーでは、前足はより垂直に引き上げられる必要があります。

板の角度をより急に立てることで、実際のオーリーに近い感覚を再現することは可能です。しかし、それでも完全とは言えません。なぜなら、最も重要なポイント――「押しているのは板なのか、それとも前足なのか?」――が抜け落ちているからです。実際には、板のほうが前足を押し返しているのです。

前足の役割

テールを弾き、前足をただ垂直に引き上げるだけで、板は自然と前足を押し返しながら持ち上がります。前足で積極的に押し込む必要はありません。

前足の役割は、板が押し返してくる力によって生まれる摩擦を利用し、板を上方向へ引き上げることです。その証拠に、前足の軌跡を可視化した黄色いラインを見ると、前には進まず、そのまま真上に持ち上がっていることが分かります。

最近、InstagramやXで多くの質問をいただきますが、特に多いのが「前足を意識的に強くスライドさせようとしてしまう」という誤解です。これは昔のチュートリアル動画の影響も大きいでしょう。しかし、この意識がなぜ問題なのか。その答えを紐解くために、一見関係なさそうなテーマ――古の忍者の動き――に目を向ける必要があります。

忍者の歩法

忍者は特殊な訓練を受け、極秘任務を遂行する戦士でした。彼らの任務は、誰にも気付かれずに最短距離で標的を仕留めること。そのために生み出されたのが、独自の移動術「縮地(しゅくち)」です。文字通り、「地面を縮める」という意味を持つこの技は、移動の常識を覆すものでした。

目の前に標的がいる――その一撃で仕留める必要があるとしたら、どう動きますか?多くの人は本能的に前へ飛び込もうとするでしょう。しかしジャンプすれば体は宙に浮き、無防備な状態になります。命を懸けた状況では、この「浮き」は致命的です。

では、どうすれば最短で距離を詰められるのか?忍者がたどり着いた答えはこうです。重心を支える脚の力を抜き、体をわずかに前方へ倒す。そこから生まれる自然な前進力を活かし、後ろ足で地面を蹴ることで、無駄な上下動を抑え、最大限の水平移動を実現する――これが縮地の理にかなった動き方です。

忍者と低いオーリーに共通する要素

この現象、どこかで見たことがあるはずです。そう、それはまさに「オーリーで前足をスライドさせたとき」に起こることです。前足を意識的に板にスライドさせると、体は自然と前傾し、オーリーで必要不可欠な上方向の力が失われてしまうのです。

次に、後ろ足の動きにも注目しましょう。前足をスライドさせようとすると体が前に倒れ、後ろ足は逆方向、つまり後方に蹴り出されます。本来、しゃがんだ状態から体を伸ばし、後ろ足でテールを弾くことで生まれる力が体を持ち上げます。しかし、テールを斜め方向に弾くほど垂直方向の成分は弱くなり、地面からの反発力も小さくなってしまうのです。

さらに、ノーズが上がろうとする際、すでに前足を押し返す力が発生しています。テールを強く後方に弾くことで、板は前足をより強く水平方向に押し返します。このとき、前足がその力に対抗して前へ押し出そうとすると、力同士が打ち消し合い、板を上方向に持ち上げる力は生まれません

オーリー中に後ろ足がテールから離れてしまう場合、多くはこのメカニズムが原因です。前足が板を押さえつけてしまうと、板をさらに持ち上げる力が失われ、重力によって板は下降します。一方で、後ろ足はそのまま上昇を続けるため、結果的に足とテールの間に距離が生まれるのです。

練習ステップ

まずは、前足を単純に持ち上げる練習から始めましょう。垂直に引き上げることに集中し、ロケットオーリーになっても気にしないでください。この動きがしっかり身についたら、次のステップに進みましょう。

テールを弾いた後、ノーズは反動で上がり、前足が内側に入りながら押されることで足首が転がるように動き、板との間に摩擦が生まれます。この動きをスムーズにするためには、下腿部(すねから足首まで)をリラックスさせることが重要です。力を抜いた状態で前足を引き上げることで、板をさらに高く持ち上げる上方向の力が生まれます。

ノーズが持ち上がったら、次は前足でノーズを押さえます。このとき活用するのが、前足を垂直に引き上げた際に生まれた上向きの力です。板がまだ上昇している間にこの力を利用することで、スケートボードは他の物体と同様に放物線を描きながら上昇し続け、重心を中心に回転し、テールが持ち上がります。

一方、ノーズを押すタイミングが遅れると、板はすでに下降を始めています。その状態では押し込んでも力が伝わらず、テールを持ち上げる力はもう残っていません

これは、すでに落ちかけている板のノーズを押してもテールが上がらない現象と同じです。詳しい仕組みについては、前回の動画もあわせてご覧ください。

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