キックフリップの仕組みを物理的、生理学的な観点から分析

Last updated: 2024/04/12

直感的に考えると、持ち上がってくる板に対して下向きの力を掛けることで効果的に板を回すことができそうですが、そうすると脚が先に地面についてしまいます。

この問題を解消するために人によって前足を「上に抜く」など様々な表現をしますが、結局板が前足に絡みつくばかりでうまく回転させることができない人も多いのではないでしょうか。

断言できることがあります。キックフリップは力の問題ではありません。膝を開き、正しい方向に足を抜くようにしてみてください。そうすれば、ほんの小さな力で板を回転させることができるはずです。

この記事では、キックフリップの動作を物理学的かつ生理学的に分析し、効果的に板を回転させるための秘密を明らかにします。大丈夫。きっとあなたにもキックフリップができるようになります。

Summary

なぜ上にフリックすることで板が回転するのか?

前提として、物体は回転軸に対して垂直な力を受けるときに最も効率よく回転します。ノーズが十分持ち上がってきてから前足を上にフリックすることで、板の回転軸に対して瞬間的に垂直な力を掛けることができ、効果的に回転させることができます。

板を回転させるコツは?

前の膝を開きましょう。そうすることで、前足の力をノーズのわきに逃がしながら回転軸に対して垂直な力をかけることが可能です。

キックフリップに必要になる力はどのくらいか?

最低で300~400グラムという非常に小さな力で回転させることが可能です。このことからも板を力強く蹴る必要はなく、ほんの少しの力をかけるだけで十分であることがわかります。

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前提:キックフリップの物理的な分解

スケートボードをフリップさせるために必要になるもの

まずは、板を回転させるために何が必要なのかを考えてみましょう。板のノーズとテールを結ぶ赤色のラインをX軸と呼ぶことにします。板は、X軸に対して垂直な力を受けるときに最も効率よく回転します。もちろん、実際にかける力は完全に垂直である必要はありません。力を分解したときに、X軸に対して垂直方向の力が十分含まれているかということが重要です。

ロケットキックフリップになってしまう原因

ただし、実際のキックフリップではX軸に垂直な力以外にも力が働きます。これは、X軸に対する垂直な力のみが働く状態では、テールを持ち上げるための力が働かないためロケットキックフリップになってしまうからです。

ノーズ摺りぬくことでテールが上がってくる

ここで、板のつま先とかかとを結ぶラインをY軸と呼ぶことにします。通常、キックフリップでは角度のついたノーズの外側を前足でフリックすることで、このY軸を中心とし、ノーズが下がり、テールが持ち上がるように板が回転します。

キックフリップを実現するために必要な力の大きさ

ここで、板を回転させるために実際にどのくらいの力が必要なのかを、実際に測定してみましょう。テールをポップし、ノーズ周辺を押して板を回転させると、300~400グラム程度であることがわかりました。これはせいぜい、軽く蹴る動作程度の力に相当します。

なぜキックフリップはこれほど難しいのか?

人間の生体力学的な傾向

ここまでを踏まえ、「板が回転する論理」は非常にシンプルで、「それを実現させる力」を出すことも、それほど難しいことではないはずです。では、なぜ板を回転させることがこれほど難しいのでしょうか?その答えは人間の生理学的な傾向に隠れています。

なぜ足をけり下げたくなるのか

人は通常、歩く動作のように足を前に出したり、押し下げることに慣れています。このため、キックフリップで板が自分に向かって起き上がってくると、足をけり下げることでX軸に対して垂直な力を発生させたくなるのはある意味当然と言えるでしょう。しかし、これでは当然、前足が先に地面についてしまいます。

なぜ前足を摺りぬくことができないか

また、もう一つの「膝を伸ばす」動作も曲者です。足をけり下げなかったとしても、つま先の方向に膝を伸ばしてしまうことで軸自体を押し動かしてしまいます。当然、この動作ではX軸に対する垂直な力は発生しませんし、板は回転することなく前足に絡みつくような動きになります。

板を効果的に回転させる方法

秘密はよくやる練習の中に

ではどうすればいいのでしょうか。ここで、よくある「地面に立ってテールを抑えてノーズをフリックする練習」をしているときの事を想像してみましょう。あなたはこの状態だと前足をフリックしやすいと感じたことはありませんか?キックフリップの秘密はまさにここにあります。

前の膝を開くと摺りぬきの動作がやりやすくなる

この練習では股関節や膝が開いているため、膝下を自由に動かしやすい状態にあります。脚が開いていると足を摺りぬいても足が下に移動することなく、水平に移動することができます。また、膝を伸ばしても前足がX軸に干渉せず、ノーズの脇をすり抜けながら力を逃がすことができます。つまり、板を効果的にフリックするためには膝や股関節が開いていることが重要になります。

前の膝を閉じた状態にしてしまうことの問題

逆に、フリックする時に膝が閉じたままである場合、斜め下に足を抜くことになります。これは非常にフリップがしづらい状態であり、蹴り下げる動作を悪化させてしまいます。また、足を蹴り下ないように膝を伸ばして板に回転を与えようとしてしまうと、板が前に飛んでしまったり、板の回転軸がずれて、斜めに回転してしまうことになります。

時系列順にみたキックフリップ

1.テールをポップした直後からノーズは弧を描きながら持ち上がり始めます。

2.膝を開きながら前足をノーズの外側方向に摺り上げていきます。

3.ノーズに働く力はつま先を押し戻しながら、体の重心に近づいていきます。

4.次第にノーズが上昇する力は弱まり、押し戻された脚がもとに戻ろうとする力と、フリックしようとする力が合わさり、膝を中心にして回転を始めます。

5.この時、膝を開いたことによって、前足はノーズの外側に力を逃がすように動きます。

6.つま先は膝を中心に弧を描いて動くため、板に対して下向きの力を発生させることになります。

要点

お分かりでしょうか。一連の流れで「意識的に下向きの力を掛ける」というプロセスは一度も存在しないにもかかわらず、結果的に板のX軸に対して垂直な力が発生しました。

前の膝を開くことによる影響

注意

ただここで少し注意しなければならないことがあります。フリックの動作の瞬間も膝から下は上昇を続けるため、つま先の絶対的な位置はほぼ常に上昇していることになります。

上に摺りぬくことで下向きの力が発生する理由

しかし、膝を中心とした足の回転に焦点を置くと、フリックする瞬間にはつま先は板に下向きの力を与え、フリックが終わった後で上向きに進行方向を変えることが分かります。この「感覚と実際の物理現象」の違いが「上にフリックすることで下向きの力が発生する」という一見相反するパラドックスが実現する答えです。

摺りぬいた力はノーズの横をすり抜けていく

さらに、この力はノーズの外側に逃げていくため、X軸自体を押し下げることなく、軸に対して垂直な力を発生させ、板を効果的に回転させることができます。重要なのは、それもこれも膝が開いた状態であるから可能であるということです。

膝から下を伸ばす必要があるとき

バリアルフリップで板が回る仕組み

では、膝を伸ばす動きが悪いかというと、そうではありません。実は、膝を伸ばす動きはバリアルフリップで活躍します。バリアルフリップではPop Shove-it方向に回転する板に対して、膝を伸ばすようにつま先を蹴りだすことで板に回転を与えます。足をどれだけ強くけりだしてもつま先がX軸に干渉することはありません。

スケートボードで板をフリップさせる2種類の方法

つまり、フリップトリックには「膝下を伸ばすことで回転を発生させる場合」と「膝を開くことで回転を発生させる場合」があり、両者の違いを理解し、トリックによって使い分けることが重要になります。

そのほかの要素

キックフリップではいつ前足を摺りぬくのか?

再び時系列を遡って考えてみましょう。ポップした直後からノーズは上昇を開始しますが、この時点では板は水平状態に近く、前足をいくら摺り抜いたとしても板に対して垂直な力を与えることはできません

待ってから摺り抜くのは正しいのか?

そのため、膝を開きながら板を摺り上げ続け、重心にノーズやつま先が近づいてからフリックを入れる必要があります。このため、人によって「待ってからフリックする」と感じる人もいれば、「キックフリップは一連の流れであるため待つ動作は存在しない」と感じる人もいることになります。一つ共通して言えることとして、ノーズが持ち上がってきてからの方が板に対して垂直な力を掛けやすいということです。

ポップについて:引き弾きをした方がいいのか?

タイミングだけでなく、ポップする方向によっても膝の角度を調整することができます。例えば、私が低いキックフリップをするときにはより強く引きながらポップします。これによって前足がより強く押し戻され、膝の角度が大きくなり、フリックの力を掛けやすくなります。

新しいシューズを履くことでどのような影響があるか?

新しいシューズを履いている時にも同じような現象が起こります。一般的に、新しいシューズは固く、より強いグリップ力があります。シューズの硬さに合わせてポップする方向を調整することで、前足の位置や膝の角度を調整するようにしましょう。

上体はどのように使うべきか?

最後に、上体の使い方も板の回転を難しくしてしまう原因になることがあります。キックフリップに慣れていないと、板の滞空時間を伸ばそうとして必要以上に上体を引き上げてしまうことがあります。問題はその反動で下半身が下方向に伸びてしまい、板が上昇する動作を妨げてしまうという点にあります。

どうしても板を回転させられない場合は、極端に両腕を下げてみると新しい発見があるかもしれません。試しにポケットに両手を入れたままキックフリップしてみてください。板が驚くほど早く回るはずです。

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